更新日時で差をつけろ

もはや更新日時でしか差を付けられない

中夜祭の裏番組

高専祭は2日の日程で行われ、今日はその1日目だった。1日目の夜には中夜祭、2日目の夜には後夜祭なるイベントが開催される。後夜祭は2年前だけ参加して、中夜祭には行ったことがない。毎年展示をしたり露店を楽しんだりで疲れて、とてもではないが動く気にならない。今年は部誌を出したかと思えば、クラス展示のお化け屋敷で使う仕掛けの実装が間に合っていないという調子で、睡眠も少し削りながら作業していた。前日にはモチベーションが尽き、惰性だけで進めた結果夜遅くまで起きていたわりには満足な実装ができなかった。そんなわけで、今年も中夜祭には行っていない。

微妙な気持ちのなかでも、いざ展示が始まるとお化け屋敷に対する先入観を活かして存分に怖がってくれる人もいて安堵する一方で、想定通りに動かない自分の実装箇所についていらだちを覚え、あれこれ修正を繰り返した。やはり惰性で作業しており、叫び声が聞こえる中で同じコマンドを何も考えずに繰り返し実行していた。そんな調子では簡単なトラブルさえも解決するはずがなく、部の展示でCDをケースに入れながら、当たりを引いてフランクフルトのおまけをもらいながら、ずっと気にするだけ気にしていた。周りがうまくやっているので、実際そのまずい実装で展示全体が困るものではなかったようにも思える。とはいえ簡単なもので、かつ数日前までうまく行っていたものがいきなりダメになったということが個人的な執着を生み出していた。こういうのをプライドというのかもしれない。

部活の展示はそれなりに盛り上がり、部誌も頒布部数が足りなくなるほどだった。渋い表紙を意にも介さず「とりあえずもらっとこうか」と持ち帰った小学生およびその家族は最後まで読んでくれるだろうか。他の班が作ったグラフィカルなゲームに騙されていないだろうか(仮に記事が「グラフィカル」だったとしても、それは見栄えではなくグラフ理論のことを指す)。部員からは「情研らしいけどマニアック」な本だと言われているので心配になる。

展示は夕方で終了する。とりあえずの片付けが終わると、夕食まで少し時間があるので修正の続きをすることにした。もちろんこれも惰性。焦りはないものの集中もない。同級生も声をかけてくれるが手伝わせるのも申し訳ないほどのやる気のなさなので一人でセンサに向かっていた。いよいよ惰性も切れてきたので、とりあえず部品をおいて仕掛けの電源を切った。それから夕食を取りシャワーを浴びた。

寮の部屋に戻って段ボールを片付けた後、修正する気力はないと判断し、荷物を取りに展示場所の教室に戻った。準備をしている学生はみな帰ったらしく、廊下含め階全体の電気が消えていた。外から光が漏れていた昼間とは違って、部屋の中は真っ暗になっている。とりあえず作業していたときの椅子に座った。エアコンのわずかな稼働音が聞こえる。唯一の明かりは天井のアクセスポイントのランプ。切れかけの蛍光灯のリズムで点滅するたび、視界に青くグラデーションがかかる。ドアの外側で足音が響く。一応まだ退去時刻ではないので見つかってもどうということはないのだが、こんなところでゆっくりして怪しいことは確かである。自分の動きが静かになる。

なんとなく夜の展示を一周したくなった。荷物をおいていたのは出口付近なので、逆にたどる。通路左右の段ボールの壁に豪快に書かれた血の色の文字は、半分が影に呑まれ、半分は習字のように黒くなっていてコントラストが強い。文字のない部分と教室の床はやや青色に染まり不気味な雰囲気がよく出ている。タブレット端末は置いてきたので道を照らすことはできない。

曲がり角においたロッカーはさほど変わりない。しかしロッカー同士の隙間を埋めるための黒いビニール袋は、自分が横切ると風を受けてバタバタと音を立てる。どれだけゆっくり歩いても音がする。ちょっとずつ暗くなる。仕掛けも人もいないのに、これほど「進みたくないな」と感じ、少しの間次の一歩をためらってしまうことを皮肉に思った。ガツガツ怖がらせるのにも自分は弱いけれど。

曲がり角をすぎるとランプの青い光はさらに当たらなくなる。ぐっと睨んでやっと壁の字が読める。床と壁の境目はとっくに見えない。かといって天井もよく見えない。奥でわずかに光を反射しているカーテンに向かって進む。複数枚のカーテンを手探りでくぐる。くぐり抜けた直後に足をひっかけて音がした。

写真を取りたくなったので寮のタブレット端末を取るため廊下に出た後、何か落ちるようなカタッという物音が教室から聞こえた。それっぽい。こういうところは運が良い。一応何枚か撮ったものの、どうもカメラにフラッシュ機能がないようで、アクセスポイントのランプ以外には何も映らなかった。この文章のほうがまだ伝わる(文章でも3割ほどしか伝えられていない)。画面の輝度を上げて照らしながら再度進んでみると、少しばかりはやりやすかったが、雰囲気が一気に落ちた。足の着地点がわかってしまう。街灯付きの夜道より暗い、このような場所を歩く経験を最近していなかったことに気づいた。

そんな感じで夜の高専病棟に没頭しているといつの間にか退出時刻になったので退散した。こういった方向のお化け屋敷も十分怖いが、昼間に人が行き来するなかでこれを再現するのはおそらく不可能なので、ある意味貴重な体験ができたと思う。

ところでエアコンは消し忘れた。せめて惰性は寝て消したい。