更新日時で差をつけろ

むしろ差をつけられている

大学編入後の現状

大学に編入して2ヶ月が経ち、夏学期の前半(S1ターム)が終わった。高専の卒研をやっていたときに「編入対策の情報は出回ってきたけれど、入ってからのことはあんまりまとまってないね」という話をされて、「なるほどそうだな」と思ったので、授業の感想を記録しておく。疑問があれば @sei0o まで連絡してください。

筆者は THE 名門校(笑) 明石高専を卒業して、この4月に東京大学工学部に編入学した。他の大学についてこの内容がどれくらい当てはまるかは未知数。

追記 (2022/7/9) 他の編入先については、次のページも参考になる。

高専生のためのまとめ

  • いろんな授業を割と自由にとれるので嬉しい。
  • 編入生以外の友達を授業で作るのはやや難しい。必要に応じてサークル等を活用したい。
  • 受ける後輩はがんばってほしい。試験のときご飯行きましょう。

駒場生のためのまとめ

  • 編入生は工学部3年生(だから寮は豊島)。
  • 編入生は実質2年生(留年が確定している)。
  • 編入生は新入生(今年の入学式に出た)。
  • 科類はない。
  • 教養もない(これは人による)。
  • ALESSはない。
  • 初ゼミはある。

履修のシステム

ちょっとシステムを解説しておく(編入生には入学後詳細な資料が提供される)。東京大学では、四半期をそれぞれS1、S2、A1、A2タームと呼ぶ。そしてS1,S2を合わせてSセメスター、A1,A2を合わせてAセメスターという。通常、1,2年生は教養学部に配属され、駒場キャンパスに通うことになる。工学部では、2年のAセメスター、つまり2Aからは本郷キャンパスで授業を展開する学科も多い。

筆者の所属は工学部3年だが、専門教育が2Aから始まること、および高専生に文系教養が欠けがちなことを鑑みて実質的に2年次からのスタートとなる(2年次編入)。したがってこの季節、筆者は2SのS1とS2の間にいる、ということになる。通常は1年半(1S, 1A, 2S)駒場にいるところを、編入生は半年(2Sのみ)で駆け抜ける。

科目は基礎科目・総合科目・主題科目などに分類される。編入生は二外などの必修に加え、総合科目を(おおざっぱにいえば)文系と理系を最低3コマずつ履修する。それ以上は文系をとってもいいし、理系をとってもいいし、何もとらなくてもいい。総合科目はそんなに課題が出ないので多めにとっても大丈夫。なお、基礎科目に分類される熱力学とか実験はやらない(受けようと思えば受けられる)。

総合科目のとり方はそれぞれの興味・関心・バイトやサークルの事情・受講スタンスによって大きく異なる。ある編入生曰く、最低取得単位ギリギリを攻めると全休を作れるが、面白くなかったり難しすぎたりした講義を切れなくなって後からしんどいらしい。筆者は大学の授業の負担がわからなかったので、とりあえず多めに入れてどうにもならなくなった授業から諦める方針をとった。進振りがないので点数も気にしない。15の優より20の可(?)。

追記 (2022/9/28): この方針を採った結果、面白そうな講義を気ままに受けて、必要な単位も取得できた。参考までに、筆者の評価は、優上2科目・優2・良12・可1(合格2)だった。他の2科目は受講を諦めた(試験が詰まっていて期末レポートを諦めたのが1つ、授業に興味が持てなかったのが1つ)。科目を削って真面目に勉強した他の編入生は、もっと優の割合が高かった(平均はわからない)。通常の進学振り分けでは厳しい点数なのかもしれないが、編入生は単位を落とさないかぎり何の問題もない。5年間 刑務所 高専寮に隔離されて、さらに1年留年させられたのだから、この程度のメリットはありがたく活用させてもらおう。

あと、たぶん教養学部生だと学期ごとの履修単位数に上限がある(キャップ制)が、筆者は週20コマ入れても特に何も言われなかった。今年は最初の2回がオンライン授業だったので、Zoomを3つ開いて同時聴講しながら履修を組んだ。教養学部の授業は講義の名前と実際に扱う学術分野の名前が一致していないとか、わかりづらいことがあるので、シラバス授業カタログぐらいは見るのがよさそう。

今のところ、「高校課程を履修していないから何言ってるかわからない」などの困った事態は発生していない。むしろ教員がナブラ記号を1年生にぶつけてたりするので心配になる。予備校とかでやるのかな?

時間割

以下は取っている科目の一覧。「月1」は月曜日1限の意味。

月1:現代国際社会論

  • いわゆる国際関係論。ODAによる援助の変遷などを見ていく。
  • 記号論理学にすればよかったかも。

月2:ベクトル解析

  • 最後の微分形式以外はほとんど既習だが一応入れてみた。やや退屈だが、雰囲気でやっていたところを埋めてくれるので悪くない。親切で教育的な大学数学の授業。
  • レジュメがわかりやすいので授業出なくていいかなとも思っている。

(月3・4:空きコマ)

  • 惑星地球科学実験:選抜に落ちた。実験系は定員が小さいので、落ちたときのために代替できる授業を探しておくとよさそう。
  • 社会環境論:実験が受講できなかったので、空いた時間で行ってみた。人が多い割に全然おもしろくなくてやめた。
  • 追記 (2022/9/28): 哲学I:『人新世の資本論』の著者が講義をもっているらしいので、本物を見るために潜ったことがあった。冷蔵庫の引き取り手を募集していた。

月5:社会思想史

  • 社会の思想史をたどる授業。年号を覚えるとかそういうことをしないので、ある意味高専の世界史に近いかもしれない
  • 今は啓蒙の時代を扱っている。時代の中心人物にフォーカスをあてて進んでいく形式で、前回はヴォルテールを扱った。
  • 先生が90分ノンストップでニコニコしながら喋っているのでなんか面白い気がしてくるが、実際にはよくわかってない。

火1:初年次ゼミナール(種差を考える)

  • 電気情報工学科を出てもうすぐ電子情報工学科に行くので、ちょっと違う分野にしようと思って生物系のところにした。やはり理IIが多いが、高校生物がわかってない工学部生でも困ることはない。
  • 和やかな雰囲気で良い。ヒッグス粒子のところにした編入生は結構教授に詰められててつらそう。

火2:フランス語初級(会話)

  • クラス指定のない総合科目なので気楽。でも別に友達ができるわけでもない。
  • 初級にはちゃんと喋れない人が集まってくる。
  • 前に年齢を聞く文(Tu as quel âge?)を扱ったときに、20歳は自分を入れて約40人中2人しかいないことがわかった。

火3:フランス語一列1

  • 主に会話。木4に「二列」の授業があって、それと合わせて履修する必要がある。
  • 本来はAセメスターの授業と通年で行う設計になっているが、編入生は受けない。
  • 第二外国語はそれぞれのクラスに入れられる。先生もあまりよくわかっていないようで、たぶん昨年落単したと思われている。理II/III-23組というところに入れられたが、とうてい馴染めそうにないし、クラスが仲良くてみじめになってくるので授業開始直前に教室に行って、終わったらすぐ出ている。もし喋り相手がほしくて、コマの都合がつくのであれば、理I(主に理・工学部に進学)にしたほうがいいかも。
  • 進度はゆっくり。春休み暇でDuolingoをやっていたのもあってやや退屈。

火4:学術フロンティア講義(気候物理学入門)

  • フランス語を流してぼんやりしたところで真面目に数式を扱うので眠くなる。
  • 図書館に海洋・気候学を数式で扱った本があまりないので困る。花輪公雄『現代地球科学入門シリーズ4 海洋の物理学』を読みながら進めている。

火5:計算の理論

  • 理学部・情報科学科(理情、IS)のガイダンス授業。S1はアルゴリズムと計算量。S2はラムダ計算について。理情用語だとそれぞれA分野・B分野となる。
  • ほとんど毎週課題があって、量としては多くないのだが、前半の今井先生のは抽象的な課題が多くてみんな困った。適当な文章を書いて乗り切った。
  • やはりコンピュータに興味のある人が多くて、seccampの話をしている人もいた(行ったほうがいいよ!と背中を押しておいた)。

水1:生物情報科学

  • 理学部・生物情報科学科のガイダンス授業。オムニバス形式で毎回違う教員が講義を行う。そこそこ内容が被る。
  • 生物の話をして、それを情報技術でなんとかする話もあった。たとえば塩基配列はATCGの4つの文字種からなる文字列として表現できるから、そこからお目当てのタンパク質を表現する配列を探すために良いアルゴリズムを使う。シーケンサーの仕組みは「へー」ってなった。
    • その一方で、遺伝子からわかることをずっと紹介する人もいた(これはこれで面白かった)ので、「生物情報」は「ナマの生物や臓器そのものというより、そこから得られる情報としての(エピ)ゲノム等に着目する」というニュアンスなのかもしれない。
    • 適応行動論とも一部かぶる。

水2:外国文学

  • フランス文学。他にイギリス・ロシア文学を扱う同名の講義があったが、履修の都合上ここしか取れず、結果としてフランスだらけになってしまった。
  • もちろんフランス語がわからなくてもついていけるが、たまに韻やら手法の問題で原著を引用しているので、それがちょっとでも読めると嬉しい。
  • これまでにはラブレーとかジュール・ヴェルヌを扱った。
  • 3人の教員が講義を数回ずつ担当する。先生ごとにやり方やトピックが違っていて楽しい。前の先生は小説・物語がメイン、いまの先生は思想のテキスト(モンテスキューとか)を扱うっぽい。
  • 4000字レポート、どうしようかね…。
  • 水1水2は寝坊しがち。ごめんなさい。

水3:英語二列(FLOW)

  • S1だけ。英語でディスカッションする授業。スピーキングのレベルを自己申告する。筆者はレベル3で出して、ちょうどよかった。
  • クラスの割り振り方は知らない。他の人の科類も知らない。
  • 第1回には仕組み上出席できない。これが成績にどのように反映されるかは知らない。おそらくそこで自己紹介的なことをやるので、若干つらい。
  • S2は英語一列を入れる(読解の授業らしい)。編入生は自動的に下っ端のG3クラスに配属される。英語教育支援室、慈悲深い。

水5:統計物理学

  • つまり統計力学量子力学と熱力学をつなぐ分野。量子も熱力もまともに勉強していないが、まあなんとかついていける。
  • 自分がわかっているのかわかっていないのかもよくわからなかったが、第6回目の授業でようやく演習問題が配布されたので復習しやすくなった。まだ解けてないけど。
  • 湯川諭『物理学アドバンストシリーズ 統計力学』の説明に近そう。田崎統計力学Iが詳細すぎて道を見失いそうになるので適宜使い分けたい。

木1:文化人類学

  • 何やってんのかよくわかんないけど、案外おもしろい。キーワードとしては構造機能主義とかグローバリゼーションとか、迷信・呪術とか。先生はガーナでフィールドワークをやっていた。フィードバックが丁寧。
  • 結局人の考えが文化や環境に影響されるか・するかを扱う部分もあるので、認知科学と関連させて考えることもできなくはなさそう。
  • これも寝坊しがち…。Zoom録画があるので助かる。

木2:人間行動基礎論

  • つまり心理学概論。教員の喋りが上手い。
  • スライド上でちょっとした実験もやってくれるので楽しい。実験の内容が独創的で感心させられる。
  • 心理学に対する誤解を解くことにも重点が置かれている。
  • 情報認知科学とも若干被る。他にもいろいろな授業で重なっている部分があるが、復習にはなるし、学問のつながりを意識できるので、それはそれでいいかなと思っている。

木3:適応行動論

  • 対面初回は1323教室の二階席まで埋まっていたが、最近はかなり空いてきた。
  • 遺伝子の話から入って、徐々にヒトの進化・行動に話を寄せていく。化学っぽい回もあれば歴史っぽい回もある。科学技術と思想のつながりも勉強になる(遺伝決定論)。
  • 人間行動基礎論と似て、遺伝にまつわる誤解についても解説が丁寧。

木4:フランス語二列

  • 文法。二外の印象は「火3:フランス語一列」の節を参照。

木5:基礎方程式とその意味

  • S1は量子論。S2は何やるか知らん。
  • シュレーディンガー方程式(基礎方程式)を最初にドーンと出してから、それを書き換えたりいろいろ代入したりするスタイル。とはいえ天下り感が出ないように導出っぽいことをやるように工夫されている。前期量子論はやらないので、プランク黒体輻射云々の話はない。
  • 講義もわかりやすいが、講義資料がそれ以上にわかりやすいのでそっちで勉強して木曜は4限で帰った。あと中間試験が面白かった。資料と試験は濱口先生のページから入手できる。

金2:言語構造論

金3: 生命科学

  • S1のみ。編入生は必須。
  • 生物を熱力学的なシステムとして理解しましょうというノリ
  • 微分方程式で捕食のモデルを書いてグラフに起こしてみたりするのは見ていて面白かったけれど、化学的な組成とか機構にはあまり興味を持てなかった。
  • 先生が楽しそうにしゃべっていてよかった。

金5:情報認知科学

  • 認知科学認知科学のアプローチ自体、現代的なコンピュータによる情報処理をモデルとするものが主流だそうで、だったらわざわざ「情報」ってつけなくてよくない?という気はする。
  • 記憶が箱ではなくて繋がりであるとか、どこかでなんとなく読んだり考えたりした話をちゃんと説明してくれるので嬉しい。
  • 対面でもオンデマンドでも受講できる。4限が空きなので、まあ帰るよね…
  • 金5の現代経済理論も検討したけれど、教員のギャグがつまらなかったのでやめた。

S2が終わってからここはまた更新したい。

施設

生協食堂が混みすぎ。12:40以降に行くとそこまで並ばない。いつも1Fのカフェテリアに行っていて、2Fには足を踏み入れたことがない。生協書籍部は1割引で本が買える。オライリー本もまあまあ入っているのでオタクにも嬉しい。

駒場図書館が食堂の近くにある。マスコットキャラがかわいい。自習スペースは広いが人も多い。昼休みは暇なのでここでぼんやり本を読んでいる。工学系の書籍は高専より若干多い程度。工学に関連しない書籍はもちろん桁外れに大学の方が充実している。

寮生活

あくまで所属は学部3年なので、三鷹ではなく豊島の寮に入ることになる。A棟とB棟がある。筆者のいるB棟では、部屋が10個集まってユニットという単位になっている。キッチンやシャワー、トイレはユニット単位で設置されている。空き部屋もあるし、自炊しない人の方が多いので、10人で1つのキッチンを使うことには必ずしもならない。筆者のいるユニットでは2人しかキッチンを使わないのに対して、ある編入生のユニットでは混み合ってなかなか使えないらしい。

学部や学年がごちゃまぜなのもあって、交流はあまりない(高専1年生の部屋の隣に専攻科2年が住むのを想像するとわかりやすい)。キャンパスではみんながグループを作っているので相対的に惨めな気分になるが、こちらではほとんど誰も喋らないので気楽。編入生で集まってレポートをやるとか、そういうことはする。あと、向かいにいかにも理系な人が住んでるな〜と思ったら、同じ高専の先輩だった。